但馬街道
２００４ ４／２
姫路から生野峠を越えて城崎を目指す古道を今回は訪ねる。山陽と山陰とを結ぶ幹線の
一つであり、生野街道とも言われた。中世には守護大名の山名、赤松氏の軍勢のせめぎあ
いの地でもあり、戦国時代には銀金鉱脈が発見され一大戦場ともなった。時代を経て、物
見遊山や湯浴みの旅人が行き交った道になった。
古来、姫路は山陽道の要衝であり、羽柴秀吉もここから天下取りになったが、その後徳
川家康の娘婿であった池田輝政が入城し白鷺城を完成させ、城下町を整備した。
ここの地形を見ると、縄文時代中期の海進時代海であった後に、市川や夢前川などの三
角州が広がり出来たものであろう。播磨国姫路の地名がそのことを示しているようである。
アイヌ・縄文語の立場からは下記のような地名であろう。
播磨国 ハリマ har-rur-muy もう一方の海の入江
姫路市 ヒメジ pi-mem-us-i 石原に泉池がある所
なお「ハリマ」は「アリマ」地名と同じであり、その対の場所が但馬であったのだろう。
但馬国 タジマ ta-suma 切り立った岩山
tan-suma こちらの岩山
図 １．兵庫県姫路市周辺の地形図
その他の気になる地名は下記の通り。
飾磨区 シカマ si-kama 大きな岩盤
si-ka-moy 大きな上手の入江
大津区 オオツ oho-tu 深い海
御立 ミタチ muy-tat-i 入江の流れの踊る所、滝川
砥堀 トホリ tu-ho-ri 峰の裾の高台
御蔭 ミカゲ muy-ka-ke 入江の上手の所
志吹 シブキ si-pu-ke 大きな倉、獲物の多い所
深志野 フカシノ hukka-si-nup 浅瀬の大きな原場
hukka-sinot 浅瀬の遊び場、祭場
別所 ベッショ pet-so 川の岩礁
曽根 ソネ so-nay 滝の川、岩礁の川
本郷 ホンゴウ ho-un-ukaw 川口にある石の重なり合い
見野 ミノ muy-no-o 入江の尊い川口
明田 アケダ arke-ta もう一方の所
八家 ヤカ ya-ka 岸辺の上手、岡
阿保 アボ a-ho 我らが川口
a-po 我らが子供（小山）、祭場
阿成 アナセ a-na-se（tur） 我らが水辺の中窪み地
今宿 イマジュク i-ma-su-ke 獲物が群生する鍋底状の窪地の所
手柄 テガラ te-kar ここで曲がっている
川の湾曲点に因む名前と思う。手柄山があ
る。
加茂 カモ kamuy 神
苫編 トマミ toma-muy 湿地の入江
蒲田 カマタ kama-ta 岩盤の所
太田 オオタ ota 砂浜
広畑 ヒロハタ pir-pa-ta 渦流のある山の所
天満 テンマ ter-oma 滝川がある
平松 ヒラマツ pira-matu 崖の入り込んだ入江
姫路から播州平野を香呂、福崎、市川と進むと雪彦山が見え左手に雪彦山８６７ｍが見
える。岩山で古くからの山岳修行の場だそうである。これらの地名は下記のように思う。
香呂 コウロ ukaw-ru 石の重なり合った道
福崎 フクザキ pu-ke-san-key 倉、獲物の多い所の出崎
市川 イチカワ i-ot-i-ka-wa 獲物が群生する所の上手の岸辺
雪彦山 セッピコ setur-pi-ko 背中、中窪みの谷のある岩山の所
si-tur-pi-ko ずっと伸びている岩山の所
さらに北に進み、播磨と但馬国との国境に生野峠、生野銀山がある。地名説話によると、
古来、荒ぶる神がこの地を通る旅人を殺したため、「死野」と言われていたが、縁起を担
いで「生野」となったとある。アイヌ・縄文語の立場からは下記のように思える。
生野町 イクノ i-kur-nup そこは日陰の原場
生野銀山は織田信長が目を付け、堺の商人、今井宗久に開発させ、徳川家康は天領とし
たのだそうである。
さらに約１５Ｋｍ進むと山名氏の古城跡の竹田宿である。室町時代末期世の中が騒然と
なって、赤松、山名、細川氏などの争乱はその後応仁の乱に発展した。ことの起こりは赤
松満祐（ミツスケ）が６大将軍足利義教（ヨシノリ）を殺害し、幕府が追討令を発してか
らである。但馬の守護山名持豊の築いた中世の名城、竹田（虎臥）城は下記の地形図から
もその堅牢さが分かる。
図 ２．兵庫県朝来郡和田山町竹田の周辺拡大地形図
竹田の地名は下記のようなものであろう、その他の地名と共に上げる。
竹田 タケダ ta-kep-ta 切り立って削れた所
金梨山 カナシ kanna-us-i 上方にくっついているもの、山
久世田 クセダ kus-e-ta
越える山／入江の所
立雲峡 リツウン ri-tu-un 高台の峰にある
立雲峡は山陰一の桜の名所で山陰の吉野桜と称えられるそうである。
次の和田山宿まで約５Ｋｍここは但馬街道と山陰道が交差する要衝である。
図 ３．兵庫県朝来郡和田山町周辺地形図
気になる地名は下記の通り。
朝来郡 アサコ as-ko （山が）切り立っている所
和田山町 ワダヤマ wattar-ya-oma 流れの絶えない淀み､淵の岸にある
養父町 ヤブ ya-pu
山縁の倉、獲物の多い所
稲津 イナヅ inaw-tu
幣場、祭場の峰
ine-tu
４つの峰（の向き合っている所）
寺内 テラウチ ter-ut,i 滝川の枝川
芳賀野 ヨシガノ i-o-si-ka-nup
獲物がとても多い上手の原場
大倉部山 オオクラベ oho-kur-pe 奥深く日陰を持つもの、山
oho-kur-pet 奥深い日陰の川
東北東に延びた尾根がこの山の特徴。
枚田 ヒラタ pira-ta 崖の所
比治 ヒジ pi-usi
小石が群在する所
栄町 サカエ sa-ka-e
砂浜の上手の入江
安井 ヤスイ yas-i すくい網する所
安井川がある。
加都田 カツタ ka-tu-ta 上手の峰の（ある）所
朝来山 アサゴ as-ko
切り立っている所
板生 イトウ etu
太地の鼻、山崎
宝山 タカラ ta-kar そこで／切り立って曲がっている
久田和 クダワ kut-ta-wa 岩崖の切り立った所
大内 オオチ o-ot-i 山裾が群在する所
大内の集落付近の山容は下記のようである。
図 ４．兵庫県朝来郡山東町大内（オオチ）の山容カシバード像
中央下部の道（黄色の線）が川縁へ寄っている辺りに大内集落がある。
塩田 シオタ so-ta 岩礁の所
一品 イッポン etu-ho-un
太地の鼻、山崎の裾がある
早田 ワサダ wa-sa-ta 岸が前に出ている所
和賀 ワガ wakka
水辺
大月 オオツキ oho-tuk-i 奥深く突き出た所
与布土（ヨフド）川と粟鹿（アワカ）川が
合流する手前の中間点にある。
諏訪 スワ su-wa
鍋底状の窪地の岸辺
喜多垣 キタガキ key-ta-kaki 山の切り立った垣根
与布土 ヨフド i-o-put,o 獲物が群在する川口
粟鹿山 アワカ a-wakka 我らが水辺
粟鹿（アワカ）川から来た地名であろう。
街道は和田山からは北西に養父市場宿をへて、円山川舟運の船着き場として栄えた八鹿
宿をへて、近世に但馬国の政治、経済の中心地として繁栄した出石（イズシ）の城下町を
通る。
八鹿町 ヨウカ i-o-ukaw 獲物が群生する石の重なり合い
出石は山々に囲まれ、出石川や太田川などの川が流れ、早くから稲作が起こり豊かな土
地として知られていたそうである。出石神社は但馬国の祖として崇敬される天日鉾（天之
日矛；アメノヒボコ）を祭るそうで、日本書紀に寄れば、新羅の王子であったが渡来し、
垂仁天皇から播磨国と淡路の村を与えられたが固辞し、諸国を遍歴した後に但馬に落ち着
いたのだそうである。しかし播磨風土記の伝えるところは土地神である伊和大神との土地
争いに敗れたことを伝えている。
図 ５．兵庫県出石郡出石町周辺拡大地形図
この地に城を築いたのは戦国時代末期の守護大名、山名祐豊（スケトヨ）で山頂に有小
山城を築き、本拠地とした。羽柴秀吉の弟、秀長に討たれて、名家の山名家は滅んだが、
その後の出石城は山麓へ築かれた。江戸時代の国替えで最終的には信州上田藩の仙石氏が
移ってきて、名物の出石ソバは信州からソバ職人をつれてきて伝わったものだそうである。
気になる地名は下記の通り。
出石町 イズシ etu-us-i 山崎が群在する所
etu-si
山崎が大きい
有小山 アリコ ar-ko もう一方の所（対抗する山崎）
桜尾 サクラオ sa-kur-o 前が日陰の山裾
弘原 ヒロハラ pir-o-par 渦流の川口
東城 トウジョウ to/tu-so 池／峰の岩（礁）
桧枝 ヒエダ pi-e-ta 小石の入江の所
福住 フクズミ pu-kut-su-muy倉、獲物の多い岩崖の窪地の入江
宮本武蔵の師匠で知られる沢庵和尚もこの地で宗鏡寺を建立し、江戸幕府との繋がりを
持っている様である。確か、桂小五郎と呼ばれた木戸孝允が潜んだ場所であった。
出石から約１２Ｋｍ北に行くと京極氏の城下町、豊岡である。出石町のすぐ西の日高町
に但馬国分寺は置かれていた。ここのヒダカ地名は下記のようであろうか。
日高町 ヒダカ pitar-ka 小石原の上手，岡
なお、豊岡の地形と地名は下記のようであろう。
図 ６．兵庫県豊岡市周辺地形図
豊岡市 トヨオカ toy-o-o-ka 泥だらけのそこの上手、岡
赤石 アカイシ wakka-us-i 水辺にある所
鶴井 ツルイ tur-i
伸びているもの、山崎
伊賀谷 イガ ika 越える
円山川 マルヤマ mak-ru-ya-oma
奥まった道の岸辺にある
栄町 サカエ sa-ka-e 砂場の上手の太地の頭、山
法花寺 ホッケイジ hotke-us-i
寝そべった所にある所
日撫 ヒナド pi-na-tu
石原の水辺の峰
三開山 ミヒラキ muy-pira-ke 入り込んだ所、山の崖の所
今森 イマモリ i-ma-mor,i 獲物が群在する岡
香住 カスミ kas-muy 徒渉する入江
加陽 カヤ kas-ya 徒渉する岸辺
佐野 サノ san-nup 前に出た原場、段丘
伊豆 イズ etu 出崎
福田 フクダ pu-kut-ta 倉、獲物の多い岩崖の所
高屋 タカヤ ta-ka-ya
切り立った上手の山縁
岩井 イワイ iwa-i 神の住処、岩の所
吉井 ヨシイ i-o-si-i 獲物がとても多い所
宮井 ミヤイ muy-ya-i
入江の岸辺の所
矢次山 ヤツギ ya-tuk-i 山縁が突き出ているもの、山
名佐路 ナサジ na-sa-us-i 水辺の前にあるもの、山崎
猪爪 イノツメ i-not-muy そこの太地のアゴ、出崎の入江
ここから約１０Ｋｍ北へ、平安時代から都人にも知られた但馬の名湯、城崎温泉である。
図 ７．兵庫県城崎郡城崎町周辺拡大地形図
城崎の地名は下記のようなものであろう。
城崎町 キノサキ key-san-key 太地の頭、山の出崎
旭 アサヒ as-pi 切り立っている岩山
桃島 モモシマ mo-su-oma 小さな鍋底状の窪地がある
長崎 ナガサキ na-ka-san-key
水辺の上手の出崎
薬師 ヤクシ ya-kusi 山縁を越える
御所 ゴショ ko-so そこは岩礁
宮本 ミヤモト muy-ya-mo-to 入江の岸辺の小さな池
湯島 ユシマ yu-suma
湯の岩山
今津 イマヅ i-ma-to/tu 獲物が群生する海／峰
楽々浦 ササウラ sar-sa-uta 草原の浜の砂浜
多くの文人達も訪れ、小説の舞台となった。