奥州道中４ 盛岡・青森
２００４ １／２７
奥州道中は江戸からみちのくの果て、青森湊まで、今回はその４回目として、盛岡から
青森まで、南部氏の城下町と北の港町を結んだみちのくの大動脈、陸羽街道とも呼ばれ、
現在の国道４号線にほぼ沿う全長約７４０Ｋｍのうち、今回は約１９２Ｋｍを見てみよう。
盛岡は南部氏２０万石の城下町、元は不来方（コズカタ）、古志方と呼ばれていた、そ
の後森ヶ岡、盛岡と改名されたそうである。アイヌ・縄文語の立場からは下記のような地
名であろう。
不来方 コズカタ kus-ka-ta 越える上手の所
盛岡は東西いずれも山越えであり、その道
標のような地名に思える。
古志方 コシカタ （同上）
森ヶ岡 モリガオカ mor,i-ka-o-ka 岡の上手のそこの上
地理的な条件からして、東への道標か。
南部氏が東北諸藩の参勤交代道として、日光道中を見習い、整備し直した道だそうであ
る。盛岡から約１９Ｋｍ北上すると、石川啄木の故郷、渋民村（現、玉山村）があり、東
に霊峰、姫神山が、西にこれも霊峰、岩手山が聳えており、啄木がこよなく愛した宿場町
である。
岩手山 イワテ iwa(oro=iwor)-te神の住処の所
岩は神様の住処と考えられていた。
姫神山 ヒメガミ pi-mem-ka-muy石原の泉の上手の入り込んで所、山
渋民村 シブタミ simpuy-ta-muy 泉を掘る入江（の付近）
さらに約１６Ｋｍ北上すると、沼宮内宿である。北上川上流のところである。
沼宮内 ヌマクナイ nu-mak-nay 豊魚の奥まった川辺
さらに約３２Ｋｍ北上すると一戸宿である。一戸（イチノヘ）、二戸、から九戸（クノ
ヘ）とある。数字の「イチ」、「ニ」、「サン」、・・・「ク」は卑弥呼の時代の、中国、魏国
の読み方だそうで現在も中国南部で使われている呼び方だそうであるが、後世の政治的意
図で名付けられた地名であろう。「ヘ」とは色々な説があるそうであるが、蝦夷から守る
ための砦跡や牧場を意味する説などだそうである。
もともとこの地方一帯は糠部郡とあったのだそうである。
糠部郡 ヌカベ nukar-pe 見張りする所
平安初期の蝦夷征討のおり、志波城、徳丹城などの兵站地、柵ノ戸の名残だということ
である。
図 １．岩手県二戸郡一戸町周辺地形図
一戸宿から次の福岡宿まで、約４．４Ｋｍであり、気になる地名は下記の通り。
蝦夷森 エゾモリ esoro-mor,i それに沿って下る岡
etu-mor,i 太地の鼻、出崎の岡
「蝦夷（エゾ）」の語源とは別。
折爪岳 オリツメ ori-tu-muy 高台の峰の山
福岡 フクオカ pu-ke-o-ka 倉、獲物の多い所のそこの上手、岡
鍵取 カギトリ ka-ke-tur-i 上手の所に伸びているもの、峰
尻子内 シリコナイ sir-ko-nay 山の所の川
天ヶ塚 アマガヅカ am-ka-toska 太地の爪、寝そべった地の上の土塁
平 タイラ ta-pira 切り立った崖
白鳥 シラトリ sirar-tur-i 岩盤が伸びている所
鳥越 トリゴエ tur-ko-e 伸びているそこの山
安比 アッピ at-pi 群在する石、小石原
安比川が流れている。
似鳥 ニタドリ nitat-tur-i 湿地が伸びている所
福田 フクダ pu-kut-ta 倉、獲物の多い岩崖の所
矢木沢 ヤギサワ ya-ke-sa-wa 山縁の所の前に出た岸辺
楢山 ナラヤマ (ri-)nar-ya-oma高台の原場の山縁にある
深持 フカモチ hutka-mo-to-i 浅い小さな池の所
猿ヶ沢 サルガサワ sar-ka-sa-wa 湿原の上手の前に出た岸辺
傾城峠 ケイジョウ key-so 太地の頭、山の岩
岩とは安山岩、形は峠名ではあるが山名。
姉帯 アネタイ ane-tay 細長い林
女鹿 メガ mekka 背線、尾根
図 ２．女鹿川と女鹿の山容カシバード撮影像
平行して流れる川に挟まれて細長く尖って尾根が走っている。（emus-mekka:刀のミ
ネ）と言い、細い山を（nupri-mekka:山の尾根）などというように地形の特徴を地名に
残している。
先達 センダチ sem(pir)-ta-us-i日陰の所にあるもの、出崎
中里 ナカザト na-ka-sa-tu 水辺の上手の前に出た峰
稲荷 トウカ tu-ukaw 峰が重なり合う
薬師堂 ヤクシドウ ya-kusi-tu-o 山縁の対岸の峰の裾
只屋敷 タダヤシキ tattar-ya-sike 滝川の山縁の荷台状の段丘
さらに馬淵川に沿って北上すると金田一宿、青森県に入り三戸宿と続く。
金田一宿 キンダイチ kim-ta-us-i 山にあるもの、集落
馬淵川 マベチ mak-pet,i 奥まった川
「大きな川」という意味のアイヌ語地名と
しているものがあるが［マ］にそういう意
味はない。
図 ３．青森県三戸郡三戸町周辺地形図
三戸は奥州道中と秋田に通じる鹿角街道との分岐点にあり、また三方を川に囲まれた河
岸段丘上の天然の要害の上にあり、豊臣秀吉から南部７郡を安堵された南部信直はここに
三戸城を築いたが、南部氏はその後、福岡、盛岡へと移っていった。
さらに浅水宿、五戸宿と続く。
浅水宿 アサミズ asam-suy 山奥の水穴／我らが傍の水源
なお、五戸町周辺地形図は下記のようである。
図 ４．青森県三戸郡五戸町周辺地形図
気になる地名は下記の通り。
奥入瀬川 オイラセ o-ir-se(tur) 山裾／川口が続いている背／瀬
鶴喰 ツルハミ tur-pa-muy 伸びている山（裾）の入江
吉田 ヨシダ i-o-si-ta 獲物がとても多い所
米沢 ヨネザワ i-o-nay-sa-wa 獲物が多い川の前の岸辺
粒ヶ谷地 ツブガヤチ to-pu-ka-yatchi沼の倉、獲物の多い所の上手の湿地
蛯川村 エビ e-pis(ne-nay) 頭、水源が浜（側にある川）
佐野 サノ san-nuo 前に出た原場、段丘
兎内 ウサギナイ ut-sa-ke-nay 枝状の砂浜の所の川
小渡 コワタリ ko-wattar,i そこは流れの絶えない淀み、淵
志戸岸 シトキシ situ-key-us-i 走り根の山がある所
豊間内 トヨマナイ toy-oma-nay 泥だらけの川
麦沢 ムギサワ mu-ke-sa-wa 塞がった所の前の岸辺
五戸宿からは十和田湖の東裾野を伝法寺宿、藤島宿と経て奥入瀬川を渡り、七戸宿に入
る。
伝法寺宿 デンポウジ ter-ho-us-i 滝川の川口がある所
藤島宿 フジシマ put,i-suma 川縁の岩山
十和田湖 トワダ to-wa-ta 湖の岸の所
to-watara 湖の岩礁
なお、七戸の西には八甲田山がある。その山について、古くは８つの峰を持ち「神の田」
と称する低地の高層湿原が多くあることから八耕田山とも書かれ、江戸時代中期の京の文
人、橘南谿（タチバナナンケイ）は東遊記に「叡山愛宕などのごとき山を三つも五つも重
ね上げたるがごとき高山なり。」と記したそうである。
八甲田山 ハッコウダ pa-ukaw-ta 山頂が重なり合った所
縄文人が感じて名付けたとおりの見方であろう。
図 ５．青森県上北郡七戸町周辺地形図
気になる地名は下記の通り。
市ノ渡 イチノワタリi-ot-i-wattar,i 獲物が群生する淀み、淵
鳥谷部 トリヤベ tur-i-ya-pet 伸びているもの、出崎の岸辺の川
治部袋 ジンバ sir-pa 山の出崎
鶴児平 ツルノコタイtur-not-ko-tay伸びている出崎の所の林
野崎 ノザキ not-san-key アゴ、山崎の前に出ている頭、先
徳万才 トクマンザイtokom-oman-sa-i小山の山奥へ入る砂場の所
八幡 ヤワタ ya-wa-ta 山縁の岸辺の所
別曽 ベツソ pet-so 川の滝/岩礁
洞内 ホラナイ ho-ra-nay 川口／山裾の低岸の川
八斗沢 ハットザワ hattar-sa-wa 流れの絶えない淀み、淵の前の岸辺
七戸からさらに北に約２３Ｋｍ進むと、陸奥湾の東南の端の野辺地湾岸の野辺地宿へ出
る。南部盛岡藩の最北の港町である。
野辺地宿 ノヘジ no-pet,i 尊い川
野辺地川に由来するものであろう。
鮭・鱒などの遡上地であったのでは。
陸奥湾 ムツ mu-to/tu 塞がった海／峰
野辺地から途中、浅虫温泉などを経由して、約４３Ｋｍ、陸奥湾を西に進むと終点の青
森である。
浅虫温泉 アサムシ asam-us-i （陸奥湾の）底、奥まった所にある所
青森は江戸時代初め葦の生い茂る漁村、善知鳥（ウトウ）村を青森と改めて、港と町造
りを行い、約１００後の江戸中期には６千２００人の港町に発展し、現在の県都に発展し
たのだそうである。