水戸から犬吠岬へ
2007 6/10
連休明けに栃木県小山市を訪れたついでに水戸の偕楽園を訪ね、房総半島の東端、茨城
県と千葉県境の銚子市の犬吠岬までレンタカーを借りて旅してみた。
かって（縄文中期の海進期）の房総半島は東から海が関東平野中央奥深く、南からは江
戸川、荒川沿いに北に奥深く入り込み、それらの入江がほとんど接するように房総半島は
ほとんど島状態であった。
図1.縄文海進期の関東平野
『考古学の世界』小林達雄監修山川出版社
より
水戸市なども大部分が海中にあり、霞ヶ
浦、牛久沼など多くの広大な湖、水郷など
はかつての入江の名残である。
東京湾に流れ込んでいた利根川は江戸幕
府の長年の治水により、東に流れを変える
工事を行い、かつての鬼怒川などの河道へ
と流れを変えて、長年の江戸の大洪水から
免れたのである。
縄文海進期の地形を想像することにより、現在では広大な関東平野の特長のない場所で
の古い縄文地名を想定することが出来る。
利根川は下記に示すようにまさに海の川であったのであろう。
利根川 トネ to-nay 海の川
to-ne-nay 海である川
海のような川
土浦市は関東平野奥深くにあり、内陸の感覚であるが、現在でも霞ヶ浦の一端にあり、
土浦市 ツチウラ to-usi-ura(=uta) 海辺にある砂浜
であろう。水戸市の場合も
水戸市 ミト muy-to 入江の海
であろう。
図 2.茨城県水戸市中心部の拡大地形図
気になる地名は下記のようである。
那珂川 ナカ na-ka
水辺の上手
松本町 マツモト matu-mo-to
入江の（付近の）小さな池
常盤町 トキワ tok-wa 突き出た岸
天王町 テンノウ ter-o-u （流れの）踊る川口がくっつき合う
千波湖 センバ sem(pir)-pa 日影の岡/岸辺
桜川 サクラ sa-kur
砂浜の日影（の地）
我が国の三大公園の一つ、偕楽園のツツジの咲きそろう広大な庭をゆっくり散歩するこ
とが出来た。
水戸から犬吠岬へは国道51号線、124号線を南下して、車で駆けた。鹿島浦の海岸を
左手にちらちらと眺めながら直線上に南に続く道をひた走り、多分かつては南北に長々と
延びた島であった鹿島の地名を考えてみた。
鹿島 カ（シマ） kas-(sima) （南北に）通り越す（島）
舟で渡る（島）
海岸段丘上に鹿島サッカースタジアムを右手に見ながら南下を急いだ。レンタカー会社
の事務員さんの話では2時間余りで行けるとの話であったが、高速道のない一般道であり、
95,6Kmを3時間余りかかってしまい途中焦ってしまい、銚子市内を抜けた。
図 3.千葉県の銚子市、茨城県境地形図
利根川河口にかかる銚子大橋を越えるときに橋の長さを計ってみた。日本一の大河、利
根川の河口の大きさはどのぐらいか気になったが、意外に短く1Km余りで、このぐらい
の河口の広さを超える河川は他にいくつもあるのではないかと思った。
銚子の地名は地形の特長からではなく、この地の持つ祭場跡の地名であろう。
銚子市 チョウシ chas-（ya-）us-i 祭場/城趾の（岸に）ある所
その城趾とは愛宕山であろう。愛宕の地名は次の地形図に示す。
その他気になる地名は下記のようである。
波崎町 ハザキ pa-san-key 岸が前に出た大地の頭、出崎
忍町 シノブ sinot-pe 踊り遊ぶ、祭りをする所
野尻 ノジリ not-sir,i 大地のアゴ、出崎の山
この地形図でははっきりしないので詳細地形図を示す。
図 4.千葉県銚子市野尻の詳細地形図
現在は利根川沿いに町の市街地はあるがもともとは海岸段丘所の地であり、上記の地名
に相応しい地名であろう。ついでに塚本町は以下のような地名であろう。
塚本町 ツカモト toska-mo-to 土手の小さな池
図 3.における地名に戻る。
猿田 サルタ sar-ta 草原/湿原の所
刑部岬 ギョウブ key-o-p 大地の頭、山の裾の所
ここも景勝の地であり、東には断崖の海岸、屏風ヶ浦、西には九十九里浜が見渡せる地
である。
別所 ベツショ pet-so 川の岩礁
仲舎利 ナカシャリ na-ka-sar,i 水辺の上手の草原
本郷 ホンゴウ hon-ukaw 太地の腹、河口の石の重なり合い
春日 カスガ kas-ka 越える岡
舟で渡す岸辺
三崎 ミサキ muy-san-key 入江に前に出た大地の頭、岬
黒生 クロバエ kur-o-pa-e 日影のある/黒々とした岡の頂上
海鹿島 アシカ as-ka
切立った上手、岸
明治の中頃までアシカなどがいて、アシカに因む地名と言われているが上記地名も成り
立つのでは。
目的地の犬吠埼は下記のような地形である。
図 5.千葉県銚子市の犬吠埼の拡大地形図
犬吠岬の地名由来を調べたら下記のようにあった。
「犬吠埼という地名には諸説があるが、中でもよく知られるものが義経の愛犬「若丸」が
岬に置き去りにされ、主人を慕う余り、7日7晩泣き続けたことから犬吠（犬が吠く）と
名付けられたという説である。他にはかつて一帯にはアシカ（ニホンアシカ）が繁殖して
おり、その鳴き声が犬に似ていたことから、犬吠埼と名付けられたという説もある。」
いかにも取って付けたような説話であろう。銚子の地名にもなったと推定している祭場
の山、７４ｍの愛宕山を中心としたこの地の地名は下記のように考える。
犬吠埼 イヌボウ inun-ho 猟に出て滞在する山裾/所
君ヶ浜 キミガ kim-ka 山の上手/岸辺
酉明浦 トリアケウラtur-arke-uta 延びているもう一方の砂浜
長崎鼻 ナガサキ na-ka-san-key水辺の上手の前に出た頭、岬
小畑池 オバタ o-pa-ta 山裾の岡の所
愛宕山 アタゴ a-tapkop 我らがタンコブ山
アタゴが愛宕神社など、古代からの祭場を示す地名であることに異存はないであろう。
この祭場が銚子の地名の由来根拠と考える。
天王台 テンノウダイter-o-tay 踊り合う、祭り合う林
外川台 トガワ to-ka-wa 海の上手の岸辺
犬若 イヌワカ inun-wakka 猟に出て滞在する水辺
名洗町 ナアライ na-ar-i 水辺のもう一方の所