甲斐の国を訪ねて
2008 1/15
例年のように息子の帰省を、車で神戸から栃木へ送っていったついでの帰りに甲斐の国、
甲府へ立ち寄ってみようと思い立った。昨年のNHK大河ドラマ風林火山の影響も受け、
また地名として「甲斐（カイ）」の基は何であろうと思っていたからでもある。いくつか
の以前調べた各地の地名を思い出しながらの旅となった。
山梨県の「ヤマナシ」の地名由来にはいくつかの説があり、山梨県の県成立時の郡名「山
梨郡」に由来することは分かっているが、下記の諸説がある。
1. バラ科ナシ属の植物「ヤマナシ（山梨）」の木が多い所から
2.「山成（ ﾅ）す」地の「成す」の連用形、「成し」から
3.土地が平で山が無かった「山無し」による
4.山裾を意味する「那智（ナチ）」の「山ナチ」が「ヤマナシ」になった
5.「山平（ナラ）す」から「ヤマナシ」になった
6.月見里郷を「ヤマナシノサト」、「ヤマナノサト」など読み、「月見里」から
などと諸説が入り乱れているが、アイヌ・縄文語の立場からみれば下記の地名が地形の
特長にピッタシの感じを受けている。
山梨県/市 ヤマナシ ya-ma-na-us-i 山縁の空間の水辺にある所
いかがであろうか。
なお、甲府市の「甲府」については武田信玄が「躑躅（ツツジ）ヶ崎」に館を築いて以
来、甲斐国の国府の役割を成し、「甲斐国府」の略称「甲府」と呼ばれるようになったこ
とは間違いないであろう。「甲斐」の地名考については「躑躅ヶ崎」の地名と合わせて順
次記すことにする。
1月7日の夜半に甲府に達し、駅前のホテルに一泊し、早朝に駅周辺の甲府城（舞鶴城）
を訪れた。ＪＲ中央線がこの城を分断するように走っている。駅の北側に山手門、山手御
門、山手渡櫓（ヤグラ）門などがあり、立派な石垣と御門の建造物が図面を基に復元され
ていた。駅の南側は舞鶴公園になっており、城の主要部分、天守台や本丸を中心に城郭が
復元されている。
案内板によると、この城は武田氏滅亡後の慶長5（1600）年頃、浅野長政、幸長（ヨ
シナガ）親子により作られ、その後徳川一門が城主となり、武田衆の出身である柳沢吉保、
吉里親子が城主となると城下町も大いに発展したが、大和郡山移封後は甲府勤番制がしか
れ、大火にも見回れ次第に華麗な姿は失われていったが明治期の排城まで続き、明治37
（1904）年に舞鶴公園として公開され、平成2（1990）年から舞鶴公園整備事業とし
て再生されているのだそうである。
この城の本丸後から周辺を見回してみたが、早朝のため周囲がかすみ、富士山などの遠
望の山は見渡せなかったが、北方の愛宕山が迫っているのが見える。各地の愛宕山の「ア
タゴ」地名については縄文時代から続く祭祀跡と考える。故山田秀三先生は北海道のタッ
プコップ（tap-kop:肩のコブ/タンコブ）地名を追って、東北地方では「タツコ」、「タツ
ゴ」、「タッコ」などの達子（森）、田子、達居（森）、立子 （山）、辰子（山）、竜子（山）
等になっていることを示し、さらに南下して駿河湾の田子（タゴ）の浦に関しては、アイ
ヌ語地名には思えないと急ブレーキを踏まれている。万葉歌人、山部赤人（ヤマベノアカ
ヒト）が役人として東国へ赴任するに際して詠んだ有名な歌、
「田子の浦ゆうち出でて見ればま白にぞ 富士の高嶺に雪は降りける」
の地であるが、静岡県富士市に田子浦港、田子浦海岸もあり、田子集落もある。潤井川
の河口が田子浦港であり、潤井川の河口の砂州上に田子集落があり、この砂州のタンコブ
状の岡が「タゴ」と呼ばれたものであろう。さらにアイヌ語、日本語共通の包括人称代名
詞である （a-:我々の） が前に接辞した「アタゴ」、すなわち
愛宕山 アタゴ a-tapkop 我らのタンコブ山
が古代からの祭祀跡と相まって、地名として維持されてきたものであろうと考える。こ
の地名とともに愛宕神社があるが、大抵は山の山頂か山腹にあることも古代からの祭場跡
としての証拠であろう。甲府の愛宕神社は愛宕山（423m）の西の山裾、愛宕町の地に
ある。
図 1.甲府城の北の愛宕山の山容カシバード撮影像
手前のこんもりとした山が愛宕山である。
なお、タコ、タゴ、タコウ地名も各地にあり、京都市の蛸薬師通などこの「タコ」地名
の一つであろう。また、京都府船井郡八木町には多国山（191m）というこんもりした
小山があり、これなど「タップコップ」の音韻をやや残した山名ではないだろうか。日本
語の「タンコブ」、「ダンゴ」（鹿児島弁ではダゴ） 、「蛸（タコ）」などとも語源は同じ
であろう。
ＪＲ甲府駅南口の軍配を右手に甲冑に身を固め座っている信玄像に対面し、その後レン
タカーを借りて、武田三代（信虎、信玄、勝頼）の躑躅ヶ崎館跡、現在の武田神社へと足
を伸ばした。
図 2.武田神社の周辺地形図
武田信玄の父、信虎はこの地から東北の谷間を上がった約3Km先の要害山の山上に城
を構えていたが、山城が入退出に不便なためこの地、躑躅ヶ崎に館を構えたのである。い
まは武田神社になっているが堀跡など残っており、館跡がそのままであることが分かる。
壕跡の水辺を白鳥が他の水鳥と一緒に悠々と泳いでいるのが印象に残る。
上記の地形図からこの地がなぜ「ツツジガサキ」なのかを考えてみた。
躑躅ヶ崎 ツツジガ tu-sut,i-ka 山峰の裾の上手/岡
なお、崎（サキ）は サキ（san-key:前に出た頭）、すなわち出崎である。（san-key
→saki 音韻の縮まったもの）この特徴的な地形に相応しい地名に思える。但し、言語学
的には音韻の前後入れ替わったメタテーゼ現象と濁音化 suti → tusi → tuzi を認め
る必要がある。つつじ、躑躅地名も各地にあり、いくつか見てみよう。
図 3.北海道富良野市西達布の「つつじ」地名の地形図
西達布川の2つの分流に挟まれた細い尾根の先端の当たりの「つつじ」集落の地名は躑
躅ヶ崎館跡の地形の特長と同じで、上記のアイヌ語地名解釈がビタリと符合する。
図 4.熊本県菊池郡大津町のつつじ台周辺の地形図
この地は阿蘇山の外輪山の西裾の斜面に位置し、上記のアイヌ語地名解釈に合うことが
分かる。
図 5.岩手県磐井郡千厩（センマヤ）町躑躅周辺の地形図
この地は大峰山の東に延びた山裾の尾根上にあり、上記のアイヌ語地名解釈に合うこと
が分かる。
その他の地名を含めて「つつじ」地名は下記のようにあり、地形の特長が上記の地名解
釈に合うかどうかを調べてみた。
表 1.各地の「つつじ」地名一覧表
読み |
漢字／日本語 |
地名関連 |
場所 |
備考 |
|
ﾂ ﾂ ｼ ﾞ |
つつじ |
字 |
北海道富良野市西達布 |
○（地名解釈可能） |
|
|
つつじ山 |
字 |
北海道常呂郡留辺蘂町温根湯 |
○ |
|
|
つつじ台 |
字 |
熊本県菊池郡大津町 |
○ |
|
|
つつじ町 |
字町 |
群馬県館林市 |
？ |
|
|
つつじ島 |
島 |
広島市福山市鞆町 |
？ |
|
|
つつじが浜 |
字/浜 |
石川県七尾市 |
○ |
|
|
つつじが岡 |
公園 |
群馬県館林市躑躅ヶ岡 |
？ |
|
|
つつじがおか |
駅名 |
宮城県仙台市若林区榴ヶ岡 |
？ |
|
|
つつじがおか |
駅名 |
茨城県つくば市つつじヶ丘 |
○ |
|
|
つつじがおか |
駅名 |
東京都調布市つつじヶ丘一丁目 |
？ |
|
|
つつじが丘 |
字 |
岩手県盛岡市加賀野 |
○ |
|
|
つつじが丘 |
字 |
茨城県牛久市 |
？ |
|
|
つつじが丘 |
字 |
東京都昭島市 |
？ 一〜三丁目 |
|
|
つつじが丘 |
字 |
神奈川県青葉区青葉台 |
○ |
|
|
つつじが丘 |
字 |
新潟県北蒲原郡中条町 |
○ |
|
|
つつじが丘 |
字 |
石川県金沢市 |
○ |
|
|
つつじが丘 |
字 |
福井県福井市三国町 |
○ |
|
|
つつじが丘 |
字 |
愛知県名古屋市名東区 |
？ |
|
|
つつじが丘 |
字 |
愛知県豊橋市 |
？ 一〜三丁目 |
|
|
つつじが丘 |
字 |
愛知県知多市 |
○ 一〜四丁目 |
|
|
つつじが丘 |
団地 |
愛知県犬山市 |
○ |
|
|
つつじが丘 |
字 |
三重県津市長岡 |
○ |
|
|
つつじが丘 |
字 |
三重県名張市奈垣 |
○ |
|
|
つつじが丘 |
字 |
岐阜県各務原市 |
○ |
|
|
つつじが丘 |
字 |
兵庫県川辺郡猪名川町 |
○ 一〜二丁目 |
|
|
つつじが丘 |
字 |
兵庫県神戸市垂水区 |
○ 一〜七丁目 |
|
|
つつじが丘 |
字 |
兵庫県三田市 |
○ |
|
|
つつじが丘 |
字 |
長崎県長崎市古賀 |
○ 一〜五丁目 |
|
|
つつじヶ丘 |
字 |
栃木県塩谷郡藤原町鬼怒川温泉 |
○ |
|
|
つつじヶ丘 |
ゴルフ場 |
栃木県足利市板倉町 |
○ |
|
|
つつじヶ丘 |
字 |
群馬県北群馬郡楱東村 |
○ 榛名山東南山麓 |
|
|
つつじヶ丘 |
字 |
茨城県つくば市 |
○ 筑波山東山麓 |
|
|
つつじヶ丘 |
字 |
静岡県熱海市 |
○ |
|
|
つつじヶ丘 |
字 |
長野県茅野市蓼科高原 |
○ 蓼科山北西山麓 |
|
|
つつじヶ丘 |
字 |
長野県上伊那郡宮田村 |
○ 駒ヶ岳東山麓 |
|
|
つつじヶ丘 |
字 |
福井県福井市上江尻 |
○ |
|
|
つつじヶ丘 |
字 |
島根県簸川郡斐川町直江 |
○ |
|
|
つつじヶ丘 |
字、団地 |
福岡県大野城市 |
○ 一〜六丁目 |
|
|
つつじヶ丘 |
団地 |
鹿児島県日置郡伊集院町 |
○ |
|
|
つつじヶ池 |
池 |
富山県北砺波郡福光町坂本 |
○ |
|
|
躑躅 |
字 |
岩手県磐井郡千厩町 |
○ |
|
|
躑躅 |
峠 |
岩手県遠野市/北閉伊郡 |
○ |
|
|
躑躅島 |
島 |
宮城県宮城郡七ヶ浜町 |
？ |
|
|
躑躅ヶ岡 |
字 |
群馬県館林市 |
？ |
|
|
躑躅山 |
山 |
東京都小笠原村父島 |
○ |
|
|
躑躅原 |
原 |
山梨県富士吉田市 |
○ 富士山北山麓 |
|
|
躑躅川 |
川 |
静岡県御殿場市゜ |
○ 富士山東山麓 |
|
|
漆治 |
字 |
島根県簸川郡斐川町直江 |
○ つつじヶ岡に隣接 |
|
|
津辻 |
字 |
大分県日田市 |
○ |
|
|
筒地 |
字 |
栃木県那須郡那須町 |
○ |
|
|
筒地 |
字 |
鳥取県東伯郡泊村 |
○ 大山の北山麓 |
|
|
榴 |
字 |
岩手県東磐井郡藤沢町藤沢 |
○ |
|
|
榴ヶ岡 |
字 |
宮城県仙台市若林区榴ヶ岡 |
？ |
新しく開発された新興住宅地も多いが、不思議と上記地名解釈に合致するものが多いこ
とが分かる。
甲斐の国の「カイ」について、下記の地名解釈を想定してみたが、躑躅ヶ崎館跡の武田
神社を訪れた際、周囲の山容からこの地では僧も思えるという気になった。
甲斐国 カイ kay(-kay,e)
折れ波（状の山並）
下記のような山容である。
図 6.山梨大学の当たりから北方を見たカシバード撮影像
なお、下方中心部の四角の壕枠は躑躅ヶ崎館跡の壕跡である。
さらに微妙な判定の地名として、この地の奧に武田信虎の築城した要害山城のあった要
害山、要害温泉も山裾にあり、「ヨウガイ」地名である。要害とは国語辞書によると
「地形がけわしく守りに有利なこと。また、その場所。」と有り、天然の要害などと山城
の必須条件であり、城と不可分の地形であるが、ここの要害山の地形はまた、アイヌ語地
名解釈とも合致し、地名が先か築城が先かの微妙な問題が残る。
図 7.甲府市上積翠寺町周辺の地形図
アイヌ語地名解釈としては下記のようである。
要害山 ヨウガイ i(=e)-o-u-ka-i
そこで山裾をくっつけ合うその上手の所
要害山も各地にあり、特に城跡との関係が濃厚であるが上記地名解釈のできるところも
多い。
表 2.各地の要害山地名一覧
|
読み |
漢字地名 |
またの名 |
場所 |
標高ｍ |
備考 |
|
ﾖ ｳ ｶ ﾞ ｲ |
要害山 |
|
福島県耶麻郡北塩原村 |
400 |
|
|
|
要害山 |
|
福島県大沼郡金山町 |
547 |
|
|
|
要害山 |
|
福島県南会津郡只見町 |
705 |
○（城跡確認できた記号） |
|
|
要害山 |
|
群馬県山田郡大間々町高津戸 |
284 |
○高津戸城/要害神社 |
|
|
要害山 |
（越生ー） |
埼玉県入間郡越生町 |
|
○ 高取城 |
|
|
要害山 |
（毛呂ー） |
埼玉県入間郡毛呂山町 |
|
○ 毛呂要害山城 |
|
|
要害山 |
|
埼玉県秩父郡小鹿野田三山 |
615 |
○ 三山五郎兵衛館 |
|
|
要害山 |
|
茨城県久慈郡水府村 |
190 |
○ 山入氏 |
|
|
要害山 |
|
千葉県木更津市真里谷 |
|
○真里谷城 里見氏 |
|
|
要害山 |
|
千葉県千葉市富里市日吉倉ゆうげ山 |
|
○要害城？ |
|
|
要害山 |
加護山 |
新潟県岩船郡神林村 |
287 |
○平林城 色部氏 |
|
|
要害山 |
|
新潟県新発田市 |
166 |
|
|
|
要害山 |
|
新潟県新発田市 |
419 |
|
|
|
要害山 |
|
新潟県三条市 |
141 |
|
|
|
要害山 |
|
新潟県南魚沼郡大和町桐沢 |
479 |
○桐沢城/大峰城 |
|
|
要害山 |
|
新潟県新潟市秋葉区 |
107 |
○東島城 新津氏 |
|
|
要害山 |
|
山梨県甲府市積翠寺町 |
787 |
○要害城 武田信虎 |
|
|
要害山 |
|
三重県熊野市 |
57 |
|
|
|
要害山 |
|
和歌山県牟婁郡白浜町富田 |
|
○馬谷城 |
|
|
要害山 |
|
鳥取県東伯郡関金町 |
400 |
|
|
|
要害山 |
|
鳥取県西伯郡西伯町/会見町 |
332 |
|
|
|
要害山 |
|
鳥取県米子市/島根県能義郡伯太町 |
281 |
|
|
|
要害山 |
|
島根県太田市 |
414 |
○富永山城 大内義隆 |
|
|
要害山 |
|
島根県太田市 |
299 |
|
|
|
要害山 |
|
島根県仁多郡仁多町 |
419 |
|
|
|
要害山 |
|
島根県簸川郡多伎町 |
253 |
|
|
|
要害山 |
（安田ー） |
島根県八束郡八雲村 |
281 |
|
|
|
要害山 |
|
島根県八束郡宍道町 |
154 |
|
|
|
要害山 |
|
広島県佐伯郡宮島町 |
|
○宮尾城/滝の尾城 |
|
|
要害山 |
茶臼山 |
広島県深安郡神辺町 |
96 |
○ |
|
|
要害山 |
|
広島県広島市五日市町利松 |
|
|
|
|
要害山 |
|
山口県熊毛郡田布施町馬島 |
110 |
△昔ののろし場/見張場 |
武田神社を後にして、岩窪町にある武田信玄の墓所、およびその夫人の三条夫人の墓所
のある円光院を訪れた。その後、武田信玄の治世の業績としても名高い信玄堤（ツツミ）
を見に釜無川を渡った。
信玄堤の辺りを竜王（リュウオウ）町といい、各地に竜王/龍王地名があり、この地名
への思いもある。すなわち
竜王 リュウオウ ru-o-u 道がそこでくっつき合う
古代からの交通の要衝で地名に残ったものと考えている。山名にも多く多くが山頂で
の尾根道の合流点になっており、古代の狩道であったのではないだろうか。東北地方では
語順が入れ替わった、法量、法領、宝良、宝領、方両、方領、法霊、豊料などの「ホウリ
ョウ」地名や宝立、宝竜、宝龍、豊龍などの「ホウリュウ」地名として残り、法隆寺の「ホ
ウリュウ」ももとはこれではないのだろうか。神社などにも残されている。文化交流の大
切な場所であったのではないだろうか。
法量 ホウリョウ (h)o-u-ru そこでくっつき合う道
宝立 ホウリュウ (h)o-u-ru そこでくっつき合う道
どうしても見て確かめたかったのが甲府市から直線距離で東北東に約15Kmの地点に
ある塩山（エンザン）市の塩ノ山（553m）である。読み方に「シオノヤマ」と「エン
ザンヤマ」の2通りがあり、日本語通りの「塩（シオ）ノ山」では無く、「エンザン」の
元の意味を確かめたかった。
図 8.南から見た塩山の山容カシバード撮影像
小山ではあるがＪＲ中央本線の塩山駅の方向に突出した、古代の祭祀跡に相応しい秀麗
な山容を誇る。この絵の右山麓には塩山（エンザン）温泉郷もある。塩と無関係なことは
この温泉成分が塩に無関係のアルカリ泉であることからもあきらかであろう。この町が塩
山（エンザン）市であることもこの山名の何であるかと無関係ではないであろう。
古今和歌集に【しほの山 差出の磯にすむ千鳥 君が御世をば 八千代とぞ鳴く】と詠
まれ、その歌の内容から塩ノ山は宮廷歌人の憧れの地となったそうであり「しおの山」も
昔から呼ばれていたことも分かる。
この山と同じような形態のアイヌ語地名の本場、北海道恵庭市、千歳市の境にある恵庭
岳を思い出す。下記のような山容で下記のようなアイヌ語の山である。
図 9.北海道恵庭市、千歳市境にある恵庭岳の山容カシバード撮影像
支笏湖のこの山の南の対岸のタップコップ山から恵庭岳である。
恵庭岳 エニワ e-en-iwa 頭を尖らせた岩山
これをヒントに塩山を見ると、
塩山 エンザン e-en-san 頭を尖らせて前に出ている（山）
と言うことで共通点に気がつく。「エンザン」が元々の縄文地名の正統な呼び方である
と考える。
この山の展望台に登り周囲を見てみようと案内板を当てにして登り始めた。「10分で第
一の展望台に着く。」とあったからであるが、登ってみると松ノ木などで視界が遮られ視
界が開けない、仕方なく第二の展望台を目指して登ることにしたが、第二の展望台でも事
情は同じで、仕方なく更にもっと上を目指すしかなく、約30分して頂上に達してしまっ
たが、事情は同じであった。天候はよく、視界の利かない合間から周囲を見渡すと甲府盆
地を黒い壁で覆ったように周囲の山並は見える。頂上には周囲の案内板があり富士山が見
えるかどうかが気になった。さすがに日本一の山であり、高い黒壁の向こうに松の枝の合
間から白い顔を出すようにくっきりと覗くように見えた。これで一片に視界の利かないス
トレスを解消できた。せっかく登ったのだから帰りは同じルートでなく逆の方向に降りて
みたが反対側の尾根はよく視界が利いて、下方が見渡せた。結局この山を縦走することに
なってしまった。
帰りに発掘中の国分寺跡、国分尼寺跡を訪ね、甲府市に帰り、風林火山博会場を見て、
神戸への帰路についた。